あおひげ

あせたクリイム色のハンカチを、かあさまがなげいていらしたことわたし、しっていたので、裏の倉庫にいらしたじいさまにいって、そめこをいただいてきた。じいさまはちいさなおなべを用意してくれて、さらにはちいさなかまどのようなものをかまえてくだすった。そめこのふたをあけてみると、黒っぽくしっとりとした粉で、ゆびさきで粉をつまんでこすると、青い青いいろになった。これはとてもキレイになるとわくわくして、じいさまといっしょに井戸の水をくみにかけた。なべにたっぷりを水をくみ、かまどに火をつけて沸騰するのをまった。わたしはそのかんも、そめこをなでてばかりいた。指先があおくそまるのがうれしかった。わたしの黒いはだも、かあさまのようなぐあいのわるいような、せんさいなゆびさきにみえた。じいさまは沸かした湯にそめこをいれて、ゆっくりと溶かしこみ、ちいさな布きれをいれて、たしかめるようにながめた。そしてわたしの顔をながめたので、うなづいてかあさまのハンカチをいれた。そうしてつけこんで、すっとひきあげる。あまりこすぎない、すんだあおになった。ゆげのたつハンカチをひあたりのいいばしょにおいた。それからゆげのたつ、なべのそばにいって、しばらくながめていた。黒いしっとりしたそめこをなでようと手にとったら、じいさまが「あまりそめこさわって、あおくそまっちまう」というんで、手をはなした。じいさまは、倉庫の方になにかをかたしにいった。わたしは、なんとなくむねがわくわくした。湯気のたつ、なべにほんのすこし指をつけてみた。すると、すこしあついくらいの、お風呂みたいだった。なので、ゆっくり、みぎてだけ、そのなべにいれた。水のうえのほうだと、しろっぽくじぶんの手がういてみえた。そこのほうにつけると、みえなくなった。ハンカチと、おんなじくらいつけて、すっとひきだした。手が、うっすらとあおくそまった。なんだかすごくきれいでうっとりみていると、ゆびさきの、爪もあおくなっていた。わたしはどくんと鼓動の音がして、爪のあおいのをみた。左の手の、ぴんくの爪をくらべて、おそろしい、まるでしんだばあさまみたいな爪になって、びっくりした。どくどくどくと鼓動がはやくなって、むねがつかえそうになって、はしって井戸までいって、いそいでみずをくみ、つめたいみずでゆすいだ。いっしょうけんめいこすっても、てのひらの、きれいだったほうのあおはうすらいだのに、つめと、つめのまわりのすこしかたくなった皮の、色がとれない。あかくなるまでこすって、それでもとれなくて、じいさまの「あおくそまっちまう」という声をおもいだして、わたしはめそめそと、声もあげないで泣いた。なにか、不浄なもののようなものに、なっちまったのだと、おそろしいきもちなって、泣いた。じいさまがそんなわたしにきづいて、声をかけたので、びくりとふるえて、みぎてをさっと、ひだりてでかくした。じいさまは、「みぎて」とちいさくつぶやいた。わたしは、罪を犯したひとのようなきもちで、ぶるぶるふるえた。じいさまがそっとわたしの手をとった。あおくなった爪をみて、「なんやきれいにそまったな」とすこしほほえんだ。わたしがだまって、さいごの涙をぽろりとこぼしてしまうと、かたい指で顔をぬぐって、わたしの青い手をとって、ひあたりのいい、ハンカチをほしてあるところまで歩いた。