先日、気持ち良く晴れた日に祖父の告別式が執り行われた。暖かい陽光の差し込む軽自動車の中で私は一人で嘔吐した。朦朧とする意識で、シートを倒し己の吐瀉物を眺める。携帯用の除菌シートで自身に飛び散った汚れを拭うが、アルコールのきつい匂いに鼻腔を刺激され、すでに空になった胃が居心地の悪そうに震え、私は肩甲骨を隆起させながらさらに胃液を吐いた。窓を開けた車内で風は気持ちよく通り抜け、柔らかな初夏の訪れに心は慰められたが、祖父との別れに今一つ心を傾けられないことが悲しかった。車内ではAMラジオが流れ、中年女性の品のいい声が小説を朗読していた。夢野久作の「押絵の奇蹟」だった。