絢子

 絢子はいわゆる、地味でおとなしい少女だった。悩みは量が多くてかたい髪の毛と、極度のアガリ症であることで、人とのかかわりがあまり得意ではなく、自分の思ったことを相手に上手に伝えることができなかった。絢子は自分が嘲笑の対象になることにも甘んじたし、もてはやされる対象にならない事実も受け入れたつもりであった。とにかく絢子は臆病で、恥ずかしがり屋で、なかなか人を信じられない少女であった。もちろん絢子にはいつも不満があった。決してキレイではない自分ではあったが、それをとやかく誰かに言われる筋合いはないし、ましてやそれが馬鹿にしていい理由になどならないと、ごく正しい道徳と倫理観を持ち合わせていた。絢子は絢子を見下ろす、それなりにこぎれいな出で立ちの女たちが嫌いだった。絢子は自分自身の内面の、純粋で誠実な部分とに自信をもち、自分がそのあたりのこぎれいなだけの女よりも随分と頭のいい女である部分を見ぬいてくれる、りこうな男を待った。絢子は自分の頭の良さを信じ、なにかしらの才能を開花させるため、本を読み、漫画の絵をかいた。自信と羞恥の感情で、自分の漫画を人には見せられなかったが、それでも誰かに見せて、スゴイ、ウマイ、ヤバイと、感想をもらうことを願った。絢子は、絢子と同様にあまりキレイではなく、おしゃべりも得意ではない数人の友人を持っていた。その優しくて聡明な彼女たちは、もし絢子の漫画をみせたとしても、褒めちぎる以外の選択肢を選ばないことを絢子は知っていた。絢子は絢子自身の嫌いな、絢子を馬鹿にする、絢子を見下ろした、コギレイな女たちに、スゴイ、ウマイ、ヤバイと、言われることを、自分自身の無意識の部分で願った。彼女の承認欲求の矛先は、友人でも教師でも親でも、まして社会でもなく、彼女を馬鹿にする、こぎれいな女たちに向かった。