キャンディハイウェイ 甘いマシンガン



ハロウィーンを前にして、あたしのサンタ・クロースが死んだ。マシンガンではねたサンタ・クロースは時期を間違えて真っ赤になった。あたしが靴下のなかにかくしていた口紅を塗って、1年前に家を出てったママが残したゲラン・ミツコをみみたぶに練りこんで、家を抜け出した後のこと。
あたしがジョン・ドウに口紅の色をうつしたとき、サンタ・クロースはマシンガンで撃たれて死んだ。息を切らせてサンタ・クロースのもとに駆けつけた時、あたしのみみたぶからゲラン・ミツコのラスト・ノートが漂った。
家の中にはあたしの好きな、色の悪いすみれの砂糖漬け、形の悪いかぼちゃのパイに、固まりやしないカスタードプティング。サンタ・クロースが必死になって、お菓子の家にでもするつもりだった?サンタ・クロースは滑稽な赤い装いから、シックな黒い服を着た。
ママが残した木製のドレッサーには苦いスコッチ・ウイスキーが入ってる。ゴロワーズを吸ったことがあるかい、とジョン・ドウはあたしにいつも苦いキスをする。大人はいつだって苦いものばかりあたしに与えるってこと、あたしはいつだってわかってた。
それでもあたしのこの家をお菓子の家にかえてくれるのはいつだって、いつだって、サンタ・クロースの役目なの。

The Last Good Kiss

マシンガンでハートをうちぬかれたのはパパ、パパ、パパなの。サンタ・クロースの正体を、あたしはとっくに知っていた。あたしのパパ、パパ、パパなの。パパは、もうあたしのひたいをなでてくれない。瞼にキスを落としちゃくれない。あたしに甘いお菓子をくれない。ジョン・ドウの正体なんか誰も誰も誰も知らないの。あたしを愛してくれる誰かなんてもういない、いない、いないのよ。あたしが口紅と香水とスコッチと煙草と苦みを知っても、いつだって!いつだって!いつだって!
ワンダーランドはこの世界じゃないってことを知ってる、あたしにワンダーランドをみせてくれた、パパ、パパ、パパ。
愛してる、さよなら。
あたしは真っ黒な服をきて、最高の笑顔をパパに見せた。