つづき

冬休みの間は部活のあとにいっしょにご飯を食べたり話をしたり手をつないだりした。自分のご飯を食べている姿をみられるのがはずかしくなるくらい好きだった。


学校が始まってから、じわじわ付き合っていることが周囲に知られていった。そんなに大々的に一緒にいたわけではなかったけれど、ある日くつばこのなかにくしゃくしゃになった紙が入っていた。
ひろげるとえんぴつでかかれた汚い字
「調子のんな」

やべえこええいじめがはじまるかもしれない調子にのってない別にこええどうしよう。。と思ったのでバレー部の友人たちに「たすけてくれ、こええぞ」と見せるとみんな、「うわあ」「ひくわ」「男が絡むとこええんだな」とお通夜のような雰囲気になった。「はげませ!味方だよとか言え!」

クラスのなかの暗黙の階級は、顔立ちの可愛らしさと部活動で決まっていた。私たちの代のいけてる女子たちはバスケ部だった。次いでバレー部、テニス部、吹奏楽部、だった。バスケ部のいけてる女子たちと、可愛い他部活の選抜女子とのグループが、いけてる男子とカップルになっていた。

いけてる男子は野球部で、顔のかっこいい男子はもちろんいけているグループだった。いづみくんはとても顔がかっこよかったので、いけてるグループだった。リサちゃんもいけてるグループだった。
顔立ちの良くない運動部のあんまりいけてない感じの私といづみくんは正直格差カップルだった。

ただ運のいい?ことに、いけてるグループは、いけてるグループの中でかわりばんこにいじめあいっこをしていた。そしてかわりばんこいじめの中で一度もいじめをうけないなんだか最強のじょしがあみちゃんだったが、あみちゃんと私はうっかり同じ幼稚園で、うっかり幼馴染だった。

いけてるグループの何人かに、きこえるところで悪口を言われたり、(きもいとか、なんかこのへんにいるやつうざくない?とか、てかブスじゃね!?など)したけれども、大々的ないじめに発展しなかったのは、あみちゃんのおかげだったかもしれないし、さえないせいだったかもしれない。

そして中学生カップルにしては息の長い、3カ月を超えたころ3年生になった。先生たちは知っていたのか、何も知らないのか、私と、いづみくんと、リサちゃんは同じクラスになった。唯とはクラスがわかれた。

リサちゃんは相変わらず高校生と付き合っていたけれど、私のことは無視していたし、いけてる女子たちの頭の悪さにイライラしたけれど、いづみくんと一緒に帰るのは楽しかった。どこかふたりで遊びにいったりはしなかった。

3か月もたって、私は
「部活を引退したらリサちゃんと付き合う約束をしているんじゃないの」
という質問をできないでいた。漫画の話とテレビのはなしと部活の話と勉強の話と塾の話と家族の話と友達の話と噂話で、それでとても楽しかった。

修学旅行の時期になって、行動班は学年で決められたのでバレー部の友人とで平和に組むことができた。そしてその班を、さらに男女でペアをつくった。ヒエラレルキーで、リサちゃんたちいけてる女子は、いづみくんたちいけてる男子と班になった。りょうこの彼の健人くんと、その他カップルは割といた。

唯のすきなタイキくんと、いづみくんもリサちゃんもあみちゃんもハタくんもみんないけてるグループ班だった。
京都にいるリサちゃんはスカートも少し短くて、少し化粧もして、少しいい匂いがして、キレイだった。いづみくんの傍にずっといた。

タイキくんのそばにもギャルっぽいミキちゃんがずっといて、唯は悲しそうだった。それでも私たちはなごやかな雰囲気のグループだったので、とてもたのしかった。健人くんはとても面白く、あまり話したことのなかったサッカー部のかんちゃんとセキくんと仲良くなった。

縁結びの神社でひいたおみくじは小吉だった。いづみくんとリサちゃんが一緒にいるのは目に入るし、小吉は凶の手前だし、だいたい凶とかあんまりないおみくじでは小吉は凶扱いだとかいうので落ち込むと、背の高いセキくんがおみくじを高い所にむすんでくれた。

旅館に戻って夜、自由時間で大広間にみんな集まった。ちょっとしたレクリエーションのようなものをやっていた。トイレにいくといって大広間を抜けた。旅館の出入り口に皮張りの椅子がいくつか並んでいたのでそこに座っていた。雑誌を読んでいるといづみくんがコーラをもって階段をおりてきた。

コーラを受け取る。
「ありがとう」
「ひとりで抜けたのみえたから」
「見てたの知ってた」
にやにや笑う
「つかれたなー」
「楽しかった?」
いづみくは視線をあわせないで苦笑いみたいな顔をした。
「あんましゃべれんかったね」
「うん残念だったけどまあ仕方ないよね」
など

大広間からちょこちょこ抜け出している生徒がいた。他校の生徒もいた。20分くらい話してから、「そろそろ戻る?」と言った。「だるくね?」
「でも30分からグループにわかれてやるやつあったよね」
「ああ…」
だるそうにしているいづみくんをひっぱって大広間につづく階段をのぼった。

ちょっと薄暗い階段をいづみくんをひっぱりながら登って、途中の踊り場で逆にひっぱられてハグをされ、「セキとあんま仲良くしないで」と言われ、テンションがダアッとあがる。
「リサちゃんと……」とは、言えずに大広間に戻った。

修学旅行から戻り部活も集大成をむかえる。総体は市内の時私たちの学校の体育館で行われたので、生徒たちがみんな応援にきた。なんとか勝つことができて、県南大会への出場がきまった。部活動のすさまじい盛り上がりを見せる。

少し気になったのは、ギャラリーにいたいづみくんは少しいらついているように見えたことだった。それでも目があったらガッツポーズをしてくれたので、頑張った。終わった後は「すげー!!おめでとう!」と、片方の口角をあげて笑って祝福してくれた。
大会が終わって家に帰るとメールがきていた。

『おめでとう!次も頑張れ。』
『ありがとー!いづみくんも○○中で今度試合だね!がんばってね!』
などのメールをする。
『てゆか今日なんかちょっと怒ってなかった?なんかあった?』
と送ると
『あーちょっとクラスのやつらにいらついただけだから』
などきた。眠さのあまりそのまま寝る。

いらついていた理由は、大会でのユニフォームが随分短い短パンだったので、足がえろいなどのはなしを一部の男子がしていたことだったとクラスの友人のえりちゃんが教えれくれた。
「私近くにいて男子ちょうきもかったけど、いづみくんがおめーらだまれよとかいってた。きれてた。」

嬉しかったので、いづみくんと一緒にかえったときにえりちゃんにきいた話をすると、「あー」といった。「真剣に部活やってるときにそういうのいわれるとはらたつよね」
「あー……」
「え?」
「ごめん」
「えっ?」
「俺もちょっとえろいと思った…」
「……」

部活の練習といづみくんの大会がかぶっていたので応援にはいけなかった。いづみくんたちは負けて、引退が決まった。私たちも初戦で負けて、引退した。受験勉強をはじめる。そのとき、「部活を引退した」ということがずっとひっかかったままだった。

7月、放課後の家庭科室で勉強をしているときについに話題に出す。
「いづみくんさ、」
「はい」
「リサちゃんと付き合ってたじゃん」
「付き合ってないよ」
「え!?」
「え?」
「いやいやw」
「まじまじ」
「??」
「……」
「……」
「引退したら付き合うって約束はしてた」

「○○(私の名字)が初カノだよ喜べ」
「わーい」
「感情こもってなさすぎ」
「……」
「……」
「なんで私と付き合ったの?」
「あー?……好きだからでしょ」
「……」(少々にやける)
「……」
「……」(徐々にテンションが下がる)
「……」
「リサちゃんが夏に彼氏つくったから?」

いづみくんがめんどくさそうな顔をしたのが怖くなったので、勉強道具をかばんにしまった。
「まてまて」
腕をつかまれたが悲しくなってしまった。
「今は○○と付き合ってるでしょ」
「うん」
「帰るの?俺も帰るからまって」
「…はい」
「素直だな…」
など

悲しい気持ちで一緒に帰った。いつも別れる場所で、いつも少し座ったりしてしゃべってからバイバイしていたが、その日はそのまま帰った。

これまでの思い出などを思い返せばちゃんといづみくんがそれなりに私を好きでいてくれていたことがわかるのに、私と付き合ったのがリサちゃんへのあてつけみたいなものだったんじゃないか、という思いがどうしてもいろいろな思い出を悲しいものにしてしまった。でも、いいじゃないか。

私が好きなんだから、かなわないと思っていたのだから、私よりもリサちゃんの方がよかったとしても、私のこともそれなりに好きでいてくれるなら、いやでも、リサちゃんの方が好きなのに、それでリサちゃんも好きなのに、リサちゃんくそうざいのに顔が可愛いだけなのに、リサちゃんうぜえな!クソ!

その日はいづみくんからメールがこなかった。めんどくさくなっちゃったのかと鬱屈としたまま寝た。
次の日学校で
「おはよう昨日はごめんね」
と謝ると、「おー」と言った。
ちゃんとそのことに関して話すことはできなかった。どうしたらいいのかよくわからなかった。

休みの日に唯と遊ぶ。
「いづみくんリサちゃんと付き合ってたわけじゃないんだー!へー!引退してから付き合う約束してたの?こないだまいが呼び出されたときにいってたのはそのことだったんだー!すげー!そんでなんでまいと付き合ったの?あ!リサちゃん高校生と付き合ったから!?」
「オッオ…」

「てかリサちゃんが勝手じゃん?彼氏いんのになんでまいにきれんのかいみわかんなくない?」
「オッ(こいつ全部いってくれるな…)」
「いづみくんはどうなんだろね」
「私かませ犬やな〜」
「え?どういう意味?」
「主人公カップルをもりあげるためにちょっかい出すわき役だよ」
「やめなよ」

「多分さ〜こうやってウダウダはなしててもなんの解決にもならないよね」
「ウン…でも話してんのが楽しいよね」
「それ」
「なんか外でたくない?」
「まめ(唯の犬)の散歩しよっか」
「しよ」
まめの散歩しながら唯のはなしもきいた。タイキくんはさっさと唯と付き合ったら幸せになれるのに

3年も体育委員だったので体育祭の準備をした。体育の授業では、クラスでフォークダンスの練習をした。リレーの選手にもなった。やっぱり体育祭はとても楽しみだった。放課後も残って練習した。いづみくんとちゃんと話す機会もないまま2学期がおわった。

夏休みは受験勉強をした。後輩の部活も見に行った。バレー部で勉強したり遊びに行ったりもした。体育祭の準備や勉強のために学校にはよく行った。そこでいづみくんとあった。2人で電車にのって遊びにいったりしたのは2回だけだった。初めていづみくんの家にも遊びに行った。

8月のなかばに祭がある。
「いづみくん男子らでいくでしょ?」
「あー多分。○○はバレー部?」
そだねーりょうこママに浴衣着つけてもらう」
「おー」
「まあいっしょに行きたかったけどね!」
「え、行く?」
「いやいい」
「なんだよ(笑)」
「ちょっと会えればいい」
照れるなど

しかしウッカリ忘れていた。いづみくんはいけているグループで、いづみくんの友達はみんないけているグループの女子とカップルで、祭なんてイベント、たとえグループでいったとしても、いけている男女グループでかたまるということになるにきまっていた。修学旅行の再来であった。

リサちゃんは高校生の彼氏ではなくていけている女子たちといたのである。修学旅行の再来である。しかし私たちのグループも、仲の良いなごやかな男子たちと合流していたのだった。(そこでカップルなのも多かったのであった。)祭のあとに花火もしたのであった。まあ楽しかったのであった。

せっかく浴衣をきたのだがそうした着飾ったものも無意味だったのであった。いけている女子たちの華やかさに圧倒されてしまった。とてもかわいくて美人できれいだった。私のがんばったちょっとしたおめかしが、むなしみにかわったのであった。リサちゃんは私服ですごく美人でえっちでかわいかった。

あの話題にふれてすこしきまずくなってから、いづみくんのまえで卑屈な態度を出さないように気を付けていたけれど、もうどうしようもなくなってしまった。私はなんだかどんどん卑屈になっていった。みんなで花火をしているときにいづみくんからメールがきた。
『どこいる?』

メールは30分くらい前にきていたのであわててメールをかえすも、その後返信はなかなかこず、一度電話をかけるとつながったが、ザワザワとした騒ぐ音と声がきこえてプツッと切れた
花火は楽しかったけど、私はもうきくずれた浴衣を脱ぎたかった

家に帰って風呂に入って寝ようとすると電話がなり、出るといづみくんの背後でいろんな人の声やザワザワがきこえた。
『どこいる?』
「もう帰ってきた」
『まじか今ハタんちいるけどこない』
「え、いっぱいいるでしょそこ」
『うん』
「いかない」
『こないの?』
「寝る〜おやすみ」
切る

また電話がなる、出る
「はい」
『いま○○(私の名字)んちの近くいる〜』
「えっ」
『自販機んとこ』
家をでる、会う
「あれ、浴衣は?」
「もう寝るとこだよ!」
「ちゃんと見れなかったから」
「別に見る価値ないよ笑」
「来年だな」
「!!!」
ハグ
(風呂入っててよかったな…)

いづみくんはハタくんちに戻るという
私は家に帰る
「ハタくんち誰がいるの?」
「野球部とか」
「女子もいるの?」
「あー…いない」
「…ほんとに?」
「うん」
「ほんとは?」
「3にんくらい」
「いるじゃん………リサちゃん?」
「ちがう」
「まあ楽しんで」
わだかまりもありつつ

けっかハタくんちにいた女子はリサちゃんだった。他にもいたが。いづみくんの嘘はすぐバレた。実際嘘だろうなと思ったけど本当に嘘だったのでいやになったし傷ついたが、リサちゃんの話題を出すのが嫌だったのでふれないでいた。夏休みがあけて、体育祭がはじまる。

中3は、各クラスでフォークダンスがある。最後の種目のリレーの前に。背の順で、男女で手をつないで入場して、フォークダンスする。いづみくんとリサちゃんは背の順でとなりだった。
いづみくんの手はすこしかたい。
自分もおどるし、ふたりがおどるところも見えた。
泣いた。ビジュアルが似合う。

体育祭はたのしかった。フォークダンスは感動的だったと思う。優勝もした。打ち上げもあった。リサちゃんは高校生の彼氏と別れた。リサちゃんはいづみくんと隣の席になった。去年と同じ展開の合唱祭。いづみくんに遠慮なしに怒ったり、泣いたり、よっぽど彼女らしいふるまいだった。

いづみくんは教室ではどんどん無口になるし、違う塾に通っていたから一緒に帰る日も減った。家庭科室での勉強はたまにした。私は本音をはなせなくなった。本音は不安と不満ばかりだった。遠慮なしにいえなかった。こわかった。
12月は一緒にかえらなかったし、しゃべらなくなってきた。