ぼくをゆるして

どうしてもいくの、ときくと、どうしてもいくの、と君は答えた。
だから、どうしたらいいのかわからなくて、そう、といって君から目をはなすと、おもいがけず涙がこぼれた。
四角い白い部屋には、君の気配がはしばしにのこっている。ふんわりとするはなのかおり。わたしがいつも、花をかえた。
君がわたしをみているのがわかって、それでもぽろぽろとこぼれる涙はとめられなかった。
ごめんね、というので、わたしは腹がたった。なきながら君をにらむと、こまったかおをしていた。
ごめんねってあやまるってことは、君は悪いことをしていると思っているの、ときく。
君はだまった。とてもこまったかおをした。こまらせているのは私なのに、とても勝手な話だけど、こまらせていることが悲しかった。
わたしは君のこまったかおが、かわいくてすきだけど、こまらせるのは、すきじゃなかった。
君がこまるのがわかっていたけど、私は、君をこまらせることをいった。
あやまらないでよ、あやまらなきゃいけないことをしないでよ、そうやって、君があやまったら、わたしは君を許さなくちゃいけなくなるじゃない。ねえ、許しちゃったら、どうやって君をおもえばいいの?
わたしのなみだを自分のそでぐちでふきながら、君が、眉をはのじにした。わたしはぐしゃぐしゃになりながら、きみの眉をみた。こまるきみが、もうしわけなくて。
きみは、ぼくをゆるして、って言った。
わたしはふかれてもふかれても、とまらない涙で、ぼやぼやになった君をにらんだ。君がいってしまう。とてもとおいところに。いつもわがままをいうわたしを、うけとめてくれた君が、こんどばかりは、わたしのわがままをかなえられそうもないって、困った顔で、わたしをみる。
ゆるさないよ、ってわたしはいう。
ずっとずっと、ゆるさないから、ってわたしはいう。
きみは困った顔で、でもほんのすこしだけ、うれしそうにわらった。