海の見える町

海沿いの町を選んだことに特に理由はなかった。強い潮風に吹き荒らされた無人の家の廃れた様に同調した訳ではないが、その風に促されるような漣は心地好いものである事に間違いはないらしかった。堤防から少し歩いて小路をのぼったところに小さな白い2階建てアパートがあった。元はもう少し白かったのだろうと思わせる程度の劣化だったが、よく見るとところどころにペンキが剥げ薄汚れた灰色の本体がのぞき、何度か壁の塗り直しや舗装が施されたのだろうと予想がついた。外階段の横の扉に、時間のためか潮風のためか、ぼろぼろで色褪せた入居者募集の広告がかろうじで貼付けてあったので、ここを私の最後の家にしようときめた。

部屋はどこでもよかったが、2階の一番端の部屋を宛がわれた。大家はありがちな体型をした中年の女で、よく陽にやけた笑顔に好感を持てた。古ぼけた家並みの吹きさらした屋根と、確かなゆらめきをもつ光りが見えた。