すきってなあに!おしえておんなのこ!

クラムボンがかぷかぷ笑ったよ」


人魚姫が難破した船から王子様を助けたのに王子様はそれに気付かないで介抱した娘と結ばれるけれど、それじゃあ人魚姫が王子様を助けたことに気付いていたら王子様は人魚姫を選んだのだろうか、命を助けてもらったことが「愛すること」に結びつくのだろうか、自分のためにしてくれたことに対する感謝の想いは愛になるのか、「助けてくれた存在」にはその対価を渡さなければいけないのか。王子様が介抱した娘を選んだのは「介抱」の中に愛情を感じたからなのか。ただタイプだったんじゃないの。

私はいつだって無償の愛を与えてきた、見返りのない愛情が本物だと想っていた、「私が愛されているから」その対価に与えたものではなくて、「私が守られているから」その対価に与えたものではなくて、ただ正体のわからない(だからこそこの言葉にあてはめていいのかわからないけれど、おそらく)「好き」という想いを抱いて、そしてそれは純粋無垢の、なんの見返りも求めない無償の愛だった。ただしそれは母親のような愛でも祖母のような愛でもない。ただそれは私の「片思い」の中に集約されていたのだ。あなたが不幸になっても、あなたが私を好きじゃなくっても、愛を返してくれなくても、ただひたすらに「好き」があふれていたのはただひとえに「片思い」であったからだったのだ。

それじゃあ例えば孤独の中に生きる人の傍にいる場合。これは偽善的なのかもしれないけれど、孤独の中に生きるなんて寂しいからと、一緒にいるとするじゃない、もしかしたらそれはその人の救いになるかもしれない。でもだからってその人の一生は面倒見切れないよ。そしたらその人は孤独の中にいて、でもちょっと救われて、でもそれは一瞬のものでまた突き落とされるのだろうか、そうしたらきっと、一度は救ったはずの私に今までのすべての憎悪が向かうんだろうか、そうしたら最初からほうっとけばよかったのか。最後まで面倒を見切れないのなら救わない方がましって、犬や猫を飼うんじゃないのよ、飽くまで対等な人間関係なのに?そこから、関係性の上下関係がうまれる。「救う人」は「救われた人」よりも上位になる。それで、「救う人」は「救われる人」を愛さなきゃいけないわけじゃないし、「救われる人」は「救う人」を愛さなきゃいけないわけじゃない。けれどそこに愛情は(おそらく)生まれる確率は高い。そうじゃなきゃいけない?救われたら、救ってくれた人が愛情を示したら、下位にあたる救われた人は愛さなきゃいけない?自然と愛せるものなのかな。このあたりの複雑さは、容疑者エックスの献身の、映画版でまつゆきやすこがなげいてる部分に近い。愛さなきゃいけない?でもその純粋な、無償な愛を、報われない愛を、孤独な愛を、見返りのない愛を、映画になる愛を、感動のある愛を、同じ愛情で受け止められないこともあるじゃない。愛情がうまれないこともあるじゃない。いったい誰を愛したらいいのかわからない。

「告白されて、うん、まあそんなタイプでもなかったんだけど、すごい私のこと考えてくれてるみたいだし、いいかなあって」魅力的な容姿をした女の子は、今の彼氏と付き合うきっかけをなんでもなさそうに話した。うすいサーモンピンクをベースに、白と金のしまもようと、キラキラひかるストーンの施された形のいいネイル(真ん中半分から先は自分の爪ではないらしい)を人差し指と親指でこすり合わせながらにこりと笑う。このこは悪い女の子だから、並行して別の男の子と遊んでいたりもするけれど、その蛮行(笑)を面白おかしく話してくれるので私はいつもおなかを抱えて笑いながら聞いている。女の子は「好きだ」といわれて付き合ううちに、愛情がめばえているそうだ。

「告白されて、あんま気にしたことなかったから、一回断ったんだけど、そのうちなんかその子がカワイクみえてきちゃって、んで友達がその子のこと、ちょっといい、みたいなこと言ってて、それで、あ、やっぱいいのかも、なんて思って。それで、いつのまにか気になっちゃってたね。そんで、俺から告白したわけ。そしたらその子、もう彼氏いたんだよね(笑)こえーよ女って(笑)」

「好きだと言われてから好きになるのって、それってほんとうに好き?」
「好きなんじゃん、むしろあたしは脈があるってひとじゃないと好きになんない」
「そうなの?」
「だって自分のこと好きにならない人好きになっても意味なくない?」
「意味ないかなあ」
「叶わない片思いに意味持たせんのは意味ないよ」
「まあそれは人にもよると思うけど。まじで意味ない片思いもあるし、いい経験になったって人もいるとおもう」
「そりゃねー、人それぞれといえばなんでもそうだけど。あたしは片思いにいつまでもひきずられるのは意味のある行為だと思えないよ」
「それは私もそう思う」
「はやく彼氏つくんなよ」
「私、好かれるとひいちゃうんだよね…」
「相手いる人好きになっても意味ないよ」
「相手いる人って、私のこと好きにならない、って絶対にわかってるから安心して好きになれるのかもしれない」
「は!いみわからん!それじゃ絶対幸せになれないじゃん!」
「私もいみわからん…片思いばっかり」
「片思いしてるのがすきなの?」
「いや…愛されたいよ」
「でもあんたこの前、ちょっといいっていってる男の子とデートしていい感じになって、そしたらなんか速攻で冷めてたじゃん、あれなんなの」
「いやなんかデートしてみないとわかんないよね…底の浅さって言うのか」
「あんたあれだよ、男の子をばかにしてんでしょ」
「男の子っていうか人をばかにしてるところがあるわ」
「あーそれだよ、ひとばかにしてたらなんも生まれないよ。それにしても、そういうばかなところがあたしはいとしいと思えるんだけどね。あたしは今の馬鹿な彼氏がだいすきだけどね」
「のろけんなよ」