すいか

湿度の高い夕方に空の向こうの雲の色が緑になるのを見た。何かを燃やした匂いが辺りを取り巻く。近所の墓場の前を通った時に線香の匂いだと気づいた。

「すいかが死んだ」という電話で目を覚ましたのは、朝4時をまわったころだった。電話口で鼻をすする母が「すいかの顔をはやくみてあげて」と言った。
すいががずいぶん弱っていると聞いたのはその電話をうける1週間前のことだった。すいかはついに歩けなくなってしまった。1週間後に帰省をする予定でバイトや大学の講座の予定を立てていたのですぐに会いにいくことができなかった。「すいかに私が帰るのを待ってと伝えて」と母に頼むと、母は「すいかはいつでもあんたを待ってる」と言った。電話をきった直後に泣いた。

「すいかが死んだ」という電話をうけた、つまり当初から帰省の予定をしていたその日、朝4時にはもう外は少し明るくて、蝉がジリジリとないていた。汗でべたついていたのでシャワーを浴びて、冷凍していた最後のご飯を解凍し、お湯を沸かしてインスタントの味噌汁も作って食べた。新幹線に乗る時間までまだ随分あった。洗い物をして、窓の鍵を確認して、着替えて、化粧もして、部屋中のコンセントを抜いて、それでもまだ時間が余ったので、ベッドに横になった。眼を閉じて、すいかのことを思い出した。コンクリートを歩く時の爪の音が聞こえた。


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